金属コロイドの研究と歴史

脅威のコロイド物質

ニューヨークにあるRCA社ビルのオフィスで、重役達は紫のランの花を、息をのんで見つめていた。
ほんの少し前まで枯れて黄色くしなびていたランの花が、今や活き活きとして、色鮮やかに蘇ったのである。そして生命を取りもどしたランの花は、その後16日~17日もの間咲き続けた。
この実験では、アメリカの著名な細菌学者であるフレデリック・S・メイシー博士の手によって、茶さじ1杯の褐色の液体が、花の入った水に加えられた。

この実験こそが、コロイド化学という比較的未知の化学分野に横たわる謎を指摘したものであり、そこにいた重役達が1年以上もの間、彼等の世界的に有名な製薬会社を代表して立ち会ってきた、数々の実験うちの1つであった。
数日後、重役達はメイシー博士の使用したものと類似した溶液の所有者を18年間にわたって所有する契約を結び、その研究に年間200万ドルを費やす決定を下した。

コロイド化学とは何かを理解するためには、まず生命の組織や器官は単純に、何億もの細胞が集まってできているものと考えていただきたい。
エネルギー、すなわちそれらの細胞の生命力となるものは、鉄やヨウ素、マンガン、銅などを含むミネラル類と金属元素からきており、人間の体内には約32のミネラル・金属元素と、ほぼ同数の微量ミネラル・微量金属元素が存在する。
コロイド化学とは、これらの物質をごく細かくし、生物細胞が利用出来る大きさに変換する化学である。
自然な状態では、これらの物質はコロイド状(※ 注)で細胞に供給されるが、現在では実験室でコロイド状物質を生産することも可能になった。 「最近ではコロイド物質の作用によって寿命が延びており、この分野の研究が進めば、平均寿命を延ばすことができるようになるだろう。」とメイシー博士は述べている。 枯れたように見えたランの花の場合、花の細胞を形成しているミネラル類と金属元素のバランスを正常に戻すために、コロイド状の銅が必要とされていた。
そして、いったんこのバランスが元に戻ると、細胞は機能しはじめ、ランの花は生命を取り戻したのである。

米国コロイド物質研究所には、非常に奇妙な映画がある。
奇妙だというのは、この映画が「頭痛」の映画だからである。
この映画に登場する役者達は、何百万倍にも拡大された、人間の脳の中の神経である。つまり、この映画では、頭痛を見る事ができるのである。
これらの神経の末端は、絡まり合い、よじれて、頭痛を引き起こしている。
そしてそこへ、コロイド物質が登場するのである。
この血球より小さな救助者達は、生命維持に必要な金属元素のバランスがくずれた場所へ向かって、まっすぐ進んでゆく。
そして、実験室で作られたこれらのコロイド物質は問題のあった箇所を正常な状態に戻してゆく。それによって、神経のねじれは無くなり、弛緩して、正常な状態に戻るのである。

電気学の権威であるステインメッツ博士は、フィステル(ろう)治癒にコロイド物質を利用する方法を考案した。
また、ニューヨークにある有名な犬猫病院、バイダウィー・ホームでは、以前は3カ月かかった皮膚病の治療を、コロイド物質を使用する事によって3日でおこなえるようになった。
米国中西部の大都市では、生活用水にコロイド状のヨウ素を投入することで、甲状腺腫を予防することが出来るようになった。
アルコール中毒の治療をおこなっているある著名な団体は、現在、過度の飲酒による悪影響を克服するだけでなく、アルコールに対する欲求を抑える働きもあるコロイド溶液の実験を続けている。
このような治療は、金属元素を患者に与えること(アルコール中毒患者の場合はアルコールの毒成分によってくずれたバランスを元に戻す働きのある金とヨウ素の補充)によって行われている。

コロイド状のミネラルの働きは、一部、電気運動によって説明することができる。
病気に侵された細胞や、死んだ細胞は、ちょうど鉄クズが磁石に引き寄せられるように、電磁力の力によって、コロイド状ミネラルに引き寄せられる。
コロイド状ミネラルはこれらの衰退した細胞や有害物質を、血流に運び入れて排出し、その間体内組織は、コロイド状ミネラル中の必要な物質を体内に取り込むのである。

コロイド物質の持つ、未知の計り知れない力を説明するために、簡単な例を1つあげてみよう。
まずここに、1辺が2.5cmの鉄の立方体があるとしよう。
立方体の表面積は32.5㎠である。
電荷は立方体の表面にあるため、表面積が大きければ大きいほど電荷も大きいことになり、この立方体をより小さな立方体に分割することができ、その結果、表面積は32.5㎠から約51.400㎠まで広がり、そこから生じる電気エネルギーは莫大な量になる。
ヨウ素を例にとってみると、コロイド状態のヨウ素は、人間の体細胞を正常に保つために欠かすことの出来ない物質の1つである。
しかし、もしあなたが遊離状のヨウ素を0.1~0.2飲んだとしたら、おそらくあなたは死につながるだろう。
これを説明する際、メイシー博士は200gのコロイド状ヨウ素の入ったコップをかかげて見せた。
「コロイド状ヨウ素は、遊離状ヨウ素50g、つまり300人分の致死量に相当します。」と博士は延べ、そのコロイド状ヨウ素を飲んで見せた。
つまり、ヨウ素はコロイド状ならば、無害であるばかりでなく、人体にとって有益なのである。
同じことが、ヒ素やその他の猛毒とされている物質にも言える。
コロイド化学は、イギリスの化学者デビット・グラハム博士によって50年前に生み出されたが、それが医学や農業、産業の分野にまで及ぼす計り知れない効力が注目され出したのは、ごく最近のことである。
近年、世界的に著名な学者が、こう述べている。「人類は今や、テレビさえ作り上げた。今の我々に残されている唯一の大きな課題は、コロイド金属を理解することであろう。そしてそれは、大地、水、空気に次ぐ、我々の“第4の財産”になるだろう。」

最後にメイシー博士はこう結んでいる。
「コロイド金属の研究は、人類の持ち得る知識の最高点へと達する道を築くだろう。」

注:コロイド(膠質)
分子よりは大きいが、普通の顕微鏡では見えない、直径10-5 ~ 10-6 センチ程度の粒子が気体・液体・固体に分散している状態。

正20面体ナノプラチナ微粒子 模式図